第13話

テオは先ほど捕まえた男に自白剤を投与してから猿轡を外した。


「お前の主人は誰だ」


「ワグナー伯爵です」


「なぜ王太子を狙った」


「ワグナー様は長年イルナ様をお慕いしていておりましたので王太子がなくなればきっとワグナー様の元に来ていただけると考えたからです」


「今この国を継げるのは王太子だけだ。そんなこともわからないほどワグナーは愚かなのか」


「ワグナー様はイルナ様のこと以外興味がございませんので、国が滅ぼうがイルナさまさえいてくださればそれでよかったのでです」


「お前自身の意思は?」


「私はワグナー様に拾われた孤児。生きる技術や勉学、温かい寝床を用意していただいた恩があります。彼の方の願いは叶えて差し上げたいのです」


(ワグナーはここまで計算してこの男を育てた。どれだけ用意周到なんだ。だがそんな危険な者が生きていると厄介だな、始末しにいくか)


テオはまた男に猿轡を噛ませて身柄を騎士に預けるとワグナー伯爵家に向かった

***

「イルナ!」


俺は血で汚れるのも構わず足を引きずってイルナの元に走った。

一刻も早くその身を抱きしめてキスをしたい。その一心だった。


「ディオス様」


 イルナはディオスに抱きしめられて初めて体が震え出した。今まではメルルを安心させるために気丈に振る舞っていたのだろう。


「イルナ…無事でよかった」


「すべてメルルのおかげなのです、点滴に毒薬を仕込もうとする見たことのない看護師に気がついて、そのあとは…」


壮絶な戦いだったことは容易に想像できた。だがなぜイルナを人質にとらなかかったのだろう。アベルがまだ息が合ったものに問い詰める。


「なぜイルナ様を人質に取らなかった?」


「ワグナー様にイルナ様を人質にとることを禁じられておりました。作戦が失敗したら抵抗したあと全員自害せよと」


そう言うとそのメイドも息を引き取った。おそらく口内に仕込んであった毒で自害したのだろう。

しかし、今回の件でイルナは本当に安全な場所で、決まった医師と看護師をつける必要があるとわかった。ようは王太子と同じ待遇にする必要があるのだ。


色々議論されたがなんとディオスが自分の寝室で近くにテオとメルルをつけて警護するという。


最初こそ、未婚の男女が同室で生活するのはどうかと反対派が多かったが、ディオスの父である現王がそれが良いと賛同したためそういうことになってしまった。


「おはようイルナ、傷の調子はどうだ?」


「まだ痛みますが我慢できる程度です。今日も執務、頑張ってくださいね」


そう言ってイルナは微笑む。

朝からとろけるような可愛いイルナの顔を見られるのなら執務も頑張れると言うもの。


「行ってくる。」


そう言って自室を後にした。

「イルナは時々寝言を言うんだ。今日は猫ちゃんが!って言った後ニコニコしてて可愛かったんだぞ」


同室になってからというもの、ディオスは毎日のようにアベルにイルナのことを惚気るようになった。


「はいはい。ようございましたね」


アベルはもうお腹いっぱいと言ったようすで、でも嬉しそうに言った。


(アベルは優しい。仕事もできる。こんな優秀な補佐官は他にいない。大切にしなければ)


「アベル、お前最近やすんでいないんじゃないか?希望があれば数日休みを出すから国に帰ってみてはどうだ?」


そういうとアベルはこまったように微笑んだ。


「ありがたいのですが、現状の不安定な状況では安心して帰ることが出来ません。そうですね。ディオス様が王位を継がれて国が安定したら、その時はお言葉に甘えます」


「そうか、お前には心労ばかりかけて申し訳ない。私がもっと上手く立ち回れればいいのだがな」


「いえ。ディオス様は立派に執務をこなされております。どうかこのまま、良き王太子であられますように」


アベルはそう言って微笑んだ。

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