第9話

「イルナ。俺は女神様の夢を見た。夢では私の行いで君が善良な人間になったと褒められたがそんなことはない。君は初めて会った時から優しくて良い少女だった」


「そんな…実は、お話しするのも恥ずかしいのですが、私、子供の頃はそれはそれは高慢で嫌な子供だったのです。ティナは私の妹なだけあってあの頃の自分を見ているようで見ていられなかったです」


「君が?だか俺が調査させた時は…」


「お父様が調査員にお金を…」


俺はあまりのことにびっくりした。


「そうやって両親から甘やかされて妃教育もまともに受けずにあなたに初めてお会いした時、私は猛烈に後悔したのです。この方の隣に並ぶためにはただの努力では足りない。もっと頑張らないといけないと、改心したのです」


(やはりイルナは悪役令嬢になる素質を持っていたのか。それを俺が変えた。よかった。イルナに出会えて)


 ゲームのヒーロー役の俺ではきっとこうはならなかったろう。確か初めての謁見を兼ねた茶会で彼女に興味はないと言って中座してしまったのだから。


(自分がしたことではないけど、クズだな)


 自分の行いが正しかったことに歓喜してイルナのほおを撫でた。するとイルナはくすぐったそうなはにかんだ可愛い笑顔を向けてくれる。この幸せがあの時の行いでできていると言うことが嬉しかったその時始業の鐘が鳴り響いた。


「すまない。少しゆっくりしすぎたな、走るぞ」


俺はイルナの手を取って走った。

教室に入ると先生はまだきていなかったのでギリギリセーフだ。


俺は平気だが、普段走ったりしないイルナは肩で息をしていた。


「イルナはすまない。また無理をさせたな」


「いいえ。いいえ。私はディオス様のお役に立てればそれでいいのですから」


周りに他の生徒がいるのも忘れて2人の空間になっているとこコホンと咳何して先生が2人に着席を促した。

イルナは帰る準備をして待たせていたディオスの手をとった。

最近2人は一緒にいる時は手を繋いで歩くようになったのだ。

それが幸せの証ということで恋人達の間で流行り、今では校内どこでもそう言った光景が見られるようになった。


イルナがくすくす笑う。可愛い笑顔だ。どうしたのかと気になって尋ねてみた。


「イルナ、何が面白かったんだ?」


「だって、皆様私たちの真似をされているでしょう?なんだかくすぐったくて。だって、それだけ私たちが仲睦まじく見えているんだっていうことですもの」


イルナは時に大胆な発言をして俺をしどろもどろにさせる。


「これは。イルナが悪いむしにつかれたからだ。最近ガイルからの接近はあったか?」


「いいえ、ラナ様が国王に言いつけてそれ以来パッタリと」


(あいつ国王に密告したのか。やるな)

 俺はラナを尊敬した。まさか側近が裏切って国王に将来の王妃に懸想していることを密告するなど前代未聞だろう。


「じゃあとりあえず問題は解決だな」


そういうとイルナは寂しそうに微笑む。


「ガイル様との一件が片付いたらまた忙しい日に戻ってしまわれるのですよね。ちょっと寂しいです」


(なんて可愛いんだ)


俺は思わず一目も憚らずイルナを抱きしめていた。

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