第89話

頼斗は、



「オレの好きヤツだー!」



と喜び、1つをぱくり。



残りの1つは、勿論姫花の分だが――



「はい、はんぶんこ」



姫花が、手で綺麗に半分にちぎったそれを、唯に差出した。



「えっ? 姫花の分が減るだろ?」



最初からもらえることを期待していなかった唯は、姫花の行動に面食らった。



「はんぶんこってね、量は減っちゃうけど、おいしさは2倍になるんだよー!」



姫花はニコニコと唯に笑いかけた。



「おかあさんがね、そう言ってたの!」



「……」



――あぁ、この子は本当に愛されて大事に育てられているんだ……自分とは、全く違う。



唯は、初めてそう思った。



「だから、はい! 唯とはんぶんこ!」



目の前に突き出されたそれを、



「ありがとう」



唯は素直に受け取った。



量が少なくてすぐに食べ終わってしまったドーナツは、



「すごく美味しい……」



今まで食べたどんな食べ物よりも、美味しかった。



「でしょう?」



そして、この時の姫花の笑顔で、



「……」



唯は完全に恋に落ちた。



そして、歪んでしまった唯の人格を正しい方向へと戻してくれた。



だから、今、断言出来るのだ。



姫花は見た目だけがいいというわけではないのだと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る