第85話

「……うん」



姫花は小さく頷いた。



自分の心境の変化に、密かに驚きながら。



以前は怖いと思っていたはずなのに、唯にキスをされるかもと思った瞬間、



――唯を、受け入れたいと思ってしまった。



そんなことは、まだ本人には言えないけれど。



唯が、誰かの机の上に適当に放置されていた2人分の鞄を持ち上げる。



「あ……」



ずっと肩に掛けていたはずなのに、いつの間にかなくなっていることに今やっと気が付いた。



きっと唯がこの教室に姫花を連れ込んだ際に、姫花の肩から外して取ったのだろう。



そんなことにも気付けない程、先程の姫花は緊張していた。



勿論、今もずっと緊張してはいるのだけれど。



「ありがと」



唯から鞄を受け取ると、



「ほら」



唯が手を差し出してきた。



「うん」



姫花はドキドキしながらも、その唯の手をそっと取った。



その瞬間、ぎゅっと強く握られた手に、更にドキッとしてしまう。



「帰ろ」



そんな短い言葉からも、唯の照れた感情は伝わってきて……



改めて、唯が好きなんだと実感した。

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