第84話

今日はこれ以上姫花と2人きりでいるのは危険だと感じた唯は、



「今日はもう、姫花には触れないようにするから」



姫花にそんな宣言をした。



「……え?」



姫花は突然、不安そうな顔になり、



「私には、胸も色気もないから……?」



見当違いな質問をしてきた。



「……へ!?」



唯は思わず変な声を出してしまった。



安斎のせいで、姫花が変なコンプレックスを感じてしまっているらしい。



「……姫花に、色気がないわけがないだろ」



唯は何だか頭痛を感じて、こめかみの辺りを右手でそっと押さえる。



「今だって、本当は姫花に色々したいのを、必死で我慢してるのに」



「い、色々って……?」



姫花が恐る恐る訊ね、



「それは、言えない」



唯は即答した。



「……今してもいいなら、教えるけど」



意地悪げに笑った唯が、姫花の頬にそっと手を添える。



勿論、ちょっとからかうだけのつもりだったのだが、



「……っ」



顔を真っ赤に染める姫花を見て、



「!」



唯も急に恥ずかしくなり、姫花に負けないくらいに顔を赤く染めた。



「ごめん……やっぱり、今のなしで」



慌てて姫花から離れた。



多分、姫花の前で余裕そうに振る舞うことは、唯には一生出来ない。



「家族が心配するだろうから、そろそろ帰ろうか」



気まずい雰囲気を壊すように、唯はさっと話題を変えた。

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