第83話

「ずっと前から、姫花とこうしたかった」



「唯……」



「だから、ごめん……そんなに簡単に離してあげられない」



苦しいくらいに強く抱き締められているのに、全く不快ではない。



唯の体から伝わってくる体温も、震えすらも心地良いと思ってしまう。



「……姫花のことが好きすぎて、どうすればいいのか分からない」



唯の苦しそうな声に、姫花も苦しくなってくる。



姫花は、両腕を唯の背中に回して、唯をぎゅっと抱き締め返した。



「!」



姫花が自分を受け入れてくれたのだと分かって嬉しくなり、唯は更に腕に力を込める。



「ゆ、唯っ……痛いよ!」



姫花は、ギブアップの意思を表示するために唯の背中をバシバシと叩いた。



「あっ、ごめん!!」



唯は、ここでやっと姫花を離した。



「ごめん……大丈夫か?」



「もう! 馬鹿力なんだから!」



姫花にプイッと顔を背けられてしまった。



「ごめん……」



唯は、シュンと項垂れた。



姫花を怖がらせたくないと思っていたはずなのに、自分の行動が信じられなかった。



あれだけ強く抱き締めたのに。



まだまだ全然足りないと思ってしまう。



このままでは、自分が次に姫花に何をしでかしてしまうのか――全く分からなくて、唯は自分が怖くなった。

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