第81話

「……くそっ、何か今日は不愉快だ」



唯は右手の甲で、安斎に触れられた左頬をごしごしと擦った。



「……唯……」



それを、不安そうに見つめる姫花。



「ごめんな、姫花……なかなか迎えに行けなくて」



唯が、姫花の頭をそっと撫でた。



「……えっと、どこから説明すればいいかな……」



誤解されていたら困るので、唯は説明しようとしたが、



「唯のこと疑ってるわけじゃないから、大丈夫だよ」



姫花は首を横に振った。



「それより、唯は平気なの?」



姫花に顔を覗き込まれ、



「俺?」



唯は首を傾げた。



「私が原因で喧嘩したって聞いたから」



「あ……」



もう他学年の所にまで噂が広まっていることを知り、唯は青ざめた。



「危ないことはしないでっていつも言ってるのに!」



やはり、怒られた。



「ごめん……」



唯は力なく項垂れた。



「唯が強いのは知ってるけど、それでも心配になるんだから」



怒られながらも、



「……」



姫花に心配されていたと知り、幸せな気持ちになってしまう唯。



「ちょっと……唯、聞いてるの!?」



やはり母親のように咎めてくる姫花に、



「聞いてるよ。やっぱり姫花のことが好きだなぁって思ってただけ」



唯は笑顔を向けた。



「それ聞いてないのと一緒……ていうか、今その話関係ないでしょ!?」



姫花は顔を真っ赤に染めた。

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