第78話

自分が母親に似ていれば、きっともっとちゃんとあったはずなのに……



なんて、それを父のせいにするのは単なる八つ当たりではあるが。



これに関しても、ないものねだりだとよく言われるが、ないものを欲しいと思って何が悪い。



ぐぬぬ、と姫花が奥歯を噛み締めていると、



「……安斎には前にも言ったけど」



唯の声は、相変わらずいつもよりも低くて。



「俺、性格ブスには興味ないから」



「……私がそうだって言いたいの!?」



安斎は、思わず唯の腕を離して数歩後ずさると、唯を思いっきり睨み上げた。



「自覚してなかったのか」



そう言って安斎を見る唯の目は、酷く冷めている。



「姫花が見てるって分かっててやってるヤツの、どこが性格美人なんだよ」



「……」



鈍い唯にしては珍しく鋭い発言に、姫花は黙ったまま少し感心した。



「お前がなんでそこまで俺に執着してるのか知らないけど……」



唯は、小さく溜息をついた。



「安斎のことをそういう風に見たことはないし、これからも見るつもりはない」



はっきりと断言した唯に、



「……っ」



女としてのプライドを傷付けられたのか、安斎は唇を噛み締めた。

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