第77話

姫花が落ち込んでいると、



「あっ、姫花……!」



唯が姫花に気付いた。



安斎あんざい、頼むから離してくれ!」



唯の腕に絡みついている女子生徒に、唯が慌ててそう告げた。



「嫌なら、力尽くで離れればいいじゃない?」



安斎と呼ばれたその女子生徒は、意地悪げに微笑んだ。



姫花から見ていても、確かに拒絶したければ腕を引き抜けばいいのに、と思う程で。



「……」



唯が、警戒心たっぷりの表情でそっと腕を引き抜こうとして――



その瞬間、安斎が唯の腕にぎゅっとしがみついた。



「!」



安斎の胸が唯の腕に押し付けられ、唯は不快そうに顔をしかめた。



「いい加減、離せよ」



姫花でも滅多に聞くことのない程の低い声で、唯が怒っているのが伝わってきた。



その声で、なんとなく状況を察することが出来た。



要するに、安斎が唯に胸を押し付けてくるので、唯は下手に動くことが出来ないのだ。



「どうして? 本当は嬉しいんじゃないの?」



不思議そうな声を上げた安斎を、



「は?」



唯は苛立ちを隠そうともせずに睨みつける。



「だって、そこの美人なカノジョさんには、全然胸がないもの」



視線だけで指し示された姫花は、



「……」



悔しいが返す言葉もなく、黙るしかなかった。



巨乳こそ正義! みたいな考えが完全消滅する時代は、待っていればいつか来てくれるのだろうか?

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