第74話

唯は、本当に嫌そうに溜息をついた。



「今の勇姿を、姫花ちゃんに見せたいとか思わねぇの?」



姫花に対してなら反応も別なのでは、と思った佐藤はそう問いかけたが、



「姫花に見られたら、怒られるから」



「え……怒る?」



「危ないことするなって、それこそもう母親みたいにガミガミと」



「……意外だな」



「まぁ、意外にしっかり者なんだよ、姫花は」



他の女とは明らかに違う、姫花のそういう部分に、唯は完全に惚れている。



今更騒ぎ立ててくる女子を見ても、鬱陶しいとしか思えない。



「ところで、お前……なんでそんなに強いの?」



そんな佐藤の質問で、周囲で騒いでいたクラスメイトたちが静かになった。



誰もが気になることだったようだ。



「あー……姫花がモテ出してから、隣にいた俺が絡まれることが増えて」



唯は、少し言いにくそうに右手の指先で頬をポリポリと掻く。



「体育館裏とかトイレとかに呼び出されたりしてるうちに……」



「……」



――それって完全なイジメじゃん!!



その場にいた全員が思ったが、言えなかった。



「……え? それでいきなりそうなるの?」



佐藤が恐る恐る訊ね、クラスメイトたちはそんな佐藤に心の中で盛大に拍手を送った――グッジョブ、佐藤! と。

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