第73話

その背中を見送った唯は、



「……」



黙ったまま、倒れた机を起こし始めた。



「あ……市川、大丈夫か?」



我に返った佐藤が、慌てて唯を手伝う。



「ん……俺は平気」



唯が小さく頷くと、



「市川って、すげぇ……」



「ていうか今の、めちゃくちゃ格好良かった!」



今まで黙って見ているだけだったクラスメイトたちが、ざわめき始めた。



「能ある鷹は……とかいうヤツだよね!」



「大人しそうだと思ってたけど……よく見るとイケメンじゃない!?」



「成績も学年トップだし!」



「しかもクラスの学級委員長だし!」



主に女子たちがキャーキャーと騒ぎ始め、



「……」



唯は嫌悪感も露わに、思いっきり嫌そうに顔を歪めた。



「市川……」



佐藤がちらりと唯の顔を見る。



「……何?」



「お前、多分今、人生最高のモテ期だぞ」



佐藤の台詞に、唯は更に不快そうな顔を見せる。



「黙れ」



低く呻くように、佐藤を制した。



「いや、そこ喜ぶところじゃねぇの!?」



「今のを格好いいとか言う女なんて、興味ない」

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