第72話

「てめぇ……!」



相庭が唯の胸ぐらを掴もうとして――



「!」



唯はそれを、右足を後ろに引いて身を引くようにしてかわす。



その際に、前方に残った左足で、相庭の足をさっと払った。



「うわっ!?」



バランスを崩した相庭は、周囲の机と椅子を幾つか巻き込みながら、激しい音を立てて床に倒れ込んだ。



「あっ、しまった……」



咄嗟に動いてしまった唯は、その音を聞いてからハッと我に返った。



「ごめん、大丈夫か?」



唯は慌てて相庭に手を貸そうとして――



「てめぇ、ふざけんな!」



相庭は唯に右の拳を振りかざす。



「!」



唯は、殆ど条件反射的に、その拳を掴んで受け止めた。



「なっ……!?」



まさか受け止められるとは思っていなかった相庭は、驚愕に目を見開いた。



「……俺、こう見えて意外と喧嘩は強いから」



脅すつもりで、相庭を睨みつけた。



本当はこんなことはしたくなかったが、こうでもしないと相手は大人しくなってくれないだろうから。



「姫花を二度と悪く言わないと約束してくれ」



いつもは大人しい唯の、怒りの篭った瞳に見据えられ、



「……」



相庭は目を逸らした。



そして唯の差し出した手を無視し、自ら立ち上がって、



「気分わりぃ。帰る」



自分の鞄をひっ掴むと、教室を出て行った。

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