第70話

姫花たちと階段で別れた唯は、1人で自分の教室へと向かった。



その道中、廊下ですれ違う生徒たちが全員、唯のことをじろじろと見てきた。



だが、見てくるだけで誰も唯に声をかけようとはしない。



自分のクラスの開け放たれたままの扉をくぐり抜けると、



「……!」



それまで騒がしかった教室内が、急に静まり返った。



「……」



クラスメイトの視線が集中する中を、唯は自分の席を目指して黙って突き進む。



鞄を机に下ろし、席に着くと、



「市川、お前……姫花ちゃんと付き合ってるって、マジ?」



このクラスでたった1人だけいる唯の友人である佐藤さとう 真琴まことが、声をかけてきた。



「どこからそんな話が広まったんだ?」



昨日の帰宅後から付き合い始めたというのに、その情報の速さは一体何なのか。



「お前が姫花ちゃんと手を繋いで歩いてるの見たってヤツらが……」



「……あ〜……」



紛れもなく、今朝の自分のせいだった。



「マジなんだな?」



今度はやや強めに訊ねられ、



「うん、まぁ」



唯は小さく頷いた。



「良かったじゃん! 俺はてっきりお前の片想いかと思ってたから」



佐藤がにこにこと笑いながら、唯の肩をバシバシと叩く。



……その叩き方が、とてつもない力が込められていて、唯は思わず顔を歪めた。

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