第69話

「俺の言われてることなんか、気にしなくていいのに」



思わずそう言った唯の顔を、



「嫌よ。唯、元気なかったし」



姫花は心配そうに覗き込んだ。



「……ありがとう」



皆は姫花のことを気が強いとか言うけれど、



「……」



唯が姫花の手をそっと握ると、その指先は冷たく、小刻みに震えているのが伝わってきた。



「ゆっ……唯!?」



驚いて唯の顔を見上げる姫花。



唯が手に力を込め、姫花の手を更にぎゅっと強く握った。



「本当は凄く怖かったのに、俺のために無理してくれたんだよな」



こんな子が、気の強い悪女なんかであるわけがない。



「……」



恥ずかしそうに俯く姫花は、それでも唯の手を振り払おうとはしない。



「俺と手を繋ぐのは、嫌?」



念のための質問に、



「……嫌、じゃない」



姫花は消え入りそうな小さな声で答えた。



「ん。じゃあ、まだしばらくは離さない」



唯は嬉しそうに笑い、



「……」



姫花は、ただただ恥ずかしそうに俯いた。



「……うーん……やっぱり、明日からは1本早い電車に乗ろう」



2人の様子を後ろからずっと黙って見ていた頼斗は、また独り言ちた。

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