第64話

これ以上、無駄な期待をさせないで欲しい。



どうせ傷付くだけだと分かっているから……



「私もね……本当は唯のことが好きなの」



ぽつりと聞こえた姫花の声に、唯は最初、幻聴でも聞いたのかと思った。



「いつからとか、きっかけは何だったのかとかは覚えてないんだけど……ずっと前から、唯が好きなの」



「……」



唯は、返す言葉が見つからずに黙ってしまった。



じゃあ、何故……唯の告白を拒絶しようとしたのか。



聞きたいのに、怖くて聞けない。



唯が黙り続けていると、



「唯は……もし私と付き合い始めたら、私への接し方とか変わっちゃったりする?」



姫花が唯の目を恐る恐る覗き込んできた。



「……変わる、かも」



そんなの、変わるに決まっている。



今まで意地悪のフリをして誤魔化してきた気持ちを、全力で表現したいと思っているのに。



「今まで以上に、姫花のことを大事にしたいと思ってる」



これが、唯の本音だ。



姫花と付き合えたら、周りの目を気にすることなく、もっと堂々と姫花を大切に出来るから。



「……キスとか……他にも色々、無理強いしない?」



かなり言いにくそうに聞いてきた姫花に、唯はやっと姫花の言いたいことを理解した。



「……男としての俺が怖いか?」



唯のその質問に、



「!」



姫花の体が、びくっと強ばった。

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