第60話

「フッては、いないんだけど……」



そうだ、断ってはいない。



「姫ちゃん、先輩のこと好きって言ってたよね?」



梅本の確認に、



「うん……」



姫花は小さく頷いた。



そう、今も姫花は唯のことが好きだ。



好きなのだが……



「もし付き合ったら、今までと比べて色々と変わっちゃうよね?」



関係が変わるのだから、それは当然のことなのだが、未だに誰とも付き合ったことがない姫花は、



「唯との関係が変わるのが、怖くて」



唯とは今まで通りでありたかった。



「先輩に触れられるのが怖いってこと?」



「……分かんない」



今まで、唯に触れられて怖いなんて思ったことはなかったが――



関係が変わると、唯はもっと違う触れ方をしてくるのだろうか?



それを、“恋人同士なのだから”と強要されるのだろうか?



“恋人”に対して唯がどのように接するのか、それが分からないから、余計に怖いと思ってしまう。



だが、この感情を蛙化現象なんて言葉で済ませて欲しくはなかった。



そんな理不尽な感情と一緒にはしないで欲しい。

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