第54話

「姫花は本当に可愛いよ」



そう言いながら姫花を優しく見つめる唯の表情は、溶けそうな程に甘い。



「……っ」



可愛いなんて言われ慣れているはずの姫花の顔が、一瞬にして真っ赤に染まった。



「え……」



初めて見る姫花の表情に、流石の唯も目を見張る。



「姫花……」



「み、見ないで!!」



慌ててクッションで顔を隠そうとする姫花の手を、



「隠さないで、よく見せろよ」



唯が掴んで押さえた。



姫花は必死に抵抗したが、男である唯の腕力に勝てるはずもなく、



「あっ!」



姫花のクッションは、あっさりと唯に奪われた。



慌てて顔を背けた姫花だったが、唯はその表情をしっかりと目に焼き付けた。



「可愛い……めちゃくちゃ可愛い」



「バカ唯! 見ないでって言ったのに!!」



姫花は両手で顔を覆う。



そんな姫花も、勿論可愛くて。



「あぁ、もう……何してても可愛い」



「わざと言ってるでしょ!?」



「だから意地悪じゃなくて、俺は本気で姫花が好きなだけで――」



「分かったから! もう何も言わないで!!」



これ以上何か言われれば、本気で爆発してしまいそうな程、姫花は顔を真っ赤にしている。



唯は、本当はそれすらも可愛いと思っているのだが、



「……分かったよ」



流石に可哀想だと思い、小さく溜息をついた。

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