第53話

だが、もう確実に姫花は、唯の気持ちに気付いている。



ここまで来て、今更引き下がることは出来なかった。



「……別に、今すぐに俺と付き合って欲しいとか、答えが欲しいだなんて言わないから」



「……」



姫花は、唯の顔を見ていられなくて俯いた。



「俺はただ、姫花に意地悪をしたくて言ってるんじゃない。姫花のことが本気で好きなだけだ」



「!!」



今はまだ聞きたくないと言ったのに、それを無視した唯の行動が信じられなかった。



「心の準備がまだだって言ったのに……」



姫花の瞳から、涙がぽろぽろと零れ落ちた。



「姫花の答えは、姫花の心の準備が出来るまで待つ」



唯が、姫花の涙を指先でそっと拭う。



「いつまででも待つから。焦らなくていいから、俺の気持ちだけは理解していて欲しい」



「勝手に話を進めないでよ……」



唯が拭ってくれても、姫花の涙は止まらない。



「勝手に進めないと、姫花は俺の気持ちを無視するだろう」



「無視なんて……」



「俺の言う“可愛い”を、ただの意地悪だと思われるのは嫌なんだ」



「……」



唯の言葉に、姫花は何も言い返せない。

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