第51話

一方、先にマンションの自室に逃げ込んだ姫花はというと――



「唯が分かんない……」



制服のまま、ベッドにうつ伏せの状態でダイブし、そのままクッションに顔を埋めていた。



姫花を可愛いと言ったのは、いつもの意地悪だと思った。



でも――



「唯のあんな顔、初めて見た……」



優しくて甘くとろけそうな唯の表情を思い出し、姫花の顔は赤く染まる。



まるで本心から言っているように見えた。



あんな顔で、あんなに真っ直ぐに見つめられたら、勘違いをしてしまう。



もしかすると唯は姫花のことが好きなのではないか、と。



でもそれはない、と姫花はすぐに首を横に振った。



唯は性格美人が好きなのだ。



絶対に、姫花のことではない。



それは、自分が1番よく分かっている。



折角面と向かって“可愛い”と言ってくれても、こうやって怒って帰ってしまう幼稚さに、きっと今頃は唯も呆れているに違いない。



「うぅ……唯ぃ」



こんなにも好きなのに、伝えられないのが辛い。



「……俺ならここにいるけど」



突然聞こえた唯の声に、



「!?」



姫花は慌てて体を起こした。



「姫花のお父さんとお母さんが、今日のお礼をしたいって夕飯に誘ってくれて」



唯は頭をぽりぽりと掻きながら説明し、ベッドの傍まで近付く。



「……俺が可愛いって言ったことで、そんなに姫花を傷付けたのか?」



悲しそうな目で、姫花の顔を覗き込んだ。

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