第49話

「ほら。着いたぞ」



唯に言われ、顔を上げるとそこは見慣れたマンションの正面玄関で。



「今日はもう、ゆっくり休めよ」



そんな言葉と共に、姫花を抱き寄せていた唯の腕の力が緩められ、そっと離れていき――



それに反抗するように、姫花は唯にぎゅっとしがみついた。



「!」



姫花の予想外の行動に驚いた唯は、



「……めちゃくちゃ可愛い」



口から本音がだだ漏れた。



「……」



姫花はその唯の言葉を、いつもの意地悪だと思い込み、ムッとする。



「可愛いって言われるの嫌いだって知ってる癖に」



今日は唯のことを改めて格好良くて優しくて好きだと思ったのに。



今の一言で台無しだ。



すぐに唯から離れた。



「今日は本当にありがとう。おやすみ」



殆ど睨みつけるようにして告げると、さっさと1人でマンションに入ってしまった。



「……」



ぽつんと残された唯を、



「……ぶはっ」



少し離れた所から見守っていた頼斗が笑った。



「……頼斗、笑うな」



唯は、頼斗をギロッと睨んだ。



「いい雰囲気だったのに、なんでいきなりそうなるわけ?」



「俺が聞きたい」



本当に、何故いつもこうなるんだろう?

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