第47話

痴漢をとっ捕まえたまま次の駅で下車した姫花たち3人は、事情聴取を受けたりしている間に、帰宅するのがすっかり遅くなってしまった。



姫花を家に送り届ける道中で、唯は姫花をずっときつく抱き寄せたままだった。



姫花の方もそれが一番安心出来る姿勢のようで、大人しく唯の腕の中に収まっている。



なんでこの2人は、これで付き合ってないんだろう? と頼斗は疑問に思いながらも、



「しっかし、よく気付いたなぁ、唯」



唯を褒め称えた。



「姫花の顔を見てたら分かる」



唯はそう言いながら、姫花の頭を優しく撫でる。



「ありがと、唯」



姫花は、また涙が滲みそうになるのを必死に堪えながら、唯の顔を見上げた。



「ん。気にするな」



唯は何でもないことのように言ってくれるが、姫花にとってはとても大事なことなのだ。



姫花が初めて痴漢にあったのは、中学一年生の頃だった。



気の強い姫花は、当時は自分でしっかりと“やめて下さい!”と言えたのだが――



当の犯人からは“自意識過剰すぎるだけだ”と主張された。



周りの人たちからも、“ちょっと可愛いからって勘違いしてる”などと言われ、姫花の主張はあまり真剣に捉えられなかった。



それ以来、電車を利用する度に痴漢に遭っていたが、また自意識過剰だと言われるのが嫌で、声も出せず、誰にも相談出来ずに耐え続けていた。

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