第46話

帰りの満員電車の中で。



「……」



姫花は、ぶすっとした顔で吊り革に必死に掴まっていた。



「……姫花、怒ってる?」



恐る恐る訊ねる唯に、



「別に」



姫花は顔を背けて答えた。



が、その直後、



「……!」



姫花が突然表情を強ばらせたことに気付く。



今にも泣き出してしまいそうな程、潤み始めた姫花の目を見て――



身動きの取りにくい中、唯は姫花の体をぎゅっと抱き寄せ、



「おい! 次の駅で降りろ!」



「痛ててて!」



姫花のお尻を触っていたスーツ姿の男の手首を掴み、ひねり上げた。



「おぉ、唯すげぇ……」



人混みに飲まれて2人から少し離れた所にいた頼斗は、その様子を見て感心した。



「唯ぃ……」



姫花は唯に抱き寄せられたまま、その胸の中でポロポロと涙を零していた。

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