第45話

「そんな派手な顔で今から電車に乗るのか?」



心配そうな顔をしながら失礼な発言をするこの男を、誰か止めてくれ。



頼斗は同じ男として居たたまれなくなり、右手の指先で額を押さえた。



“派手な顔”と言われ、普段から目立つ顔をしていることを気にしていた姫花は、



「分かったわよ! 落とせばいいんでしょ!」



通学鞄の中からタオルを取り出し、



退いて!」



教室の入口に突っ立ったままの唯の体を両手で押し退け、トイレへと向かって走り出した。



「おい、廊下を走ると危ないぞ!」



どこまでもズレた方向に心配をする唯に、



「……市川先輩が、地味なモテ方しかしない理由が、今分かった気がする」



梅本は頭痛を覚えて両手で頭を抱えた。



「先輩、少しは桐生君の振る舞いを見習った方がいいですよ」



というか見習え! と叫びたいのは我慢した。



「え? 頼斗を? なんで?」



本気で首を傾げている唯に、



「唯。お前、今の姫花を見て何とも思わなかったのか?」



頼斗が考えるヒントを与えた。



「……姫花はすっぴんが一番可愛いのに残念だと思ったけど」



「……それを言えば良かったのに」



何故、わざわざ乙女心を踏みにじるような言い方をするのか。



「で、さっき言ってたコーラルって何の話をしてたんだ?」



相変わらずズレた質問をする唯に、



「はぁー」



「最低ね」



頼斗と梅本は同時に溜息をついた。

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