第40話

「お母さんをママ呼びに変えたのはなんでなんだ?」



「……父さんへの当てつけ」



「……」



反抗期をこじらせている娘を、それでも大切に育てている世のお父さんって偉大だと思う。



「俺から見れば、凄くいいお父さんだと思うけどな」



学校の成績が少し落ちたくらいで無視を決め込んでくるような唯の父親とは、随分と違う。



「……」



唯は家族の話をあまりしないのではっきりとは分からないが、何かわだかまりのようなものがあると薄々気付いていた姫花は、黙ってしまった。



急に悲しそうな目で見つめてきた姫花の視線に気付いた唯は、



「俺も、あんないい男になりたいって意味だよ」



深い意味はないと伝えるために、ふわっと微笑みながら、姫花の頭を優しく撫でた。



「……」



唯までをも、そんな風に思わせてしまう父が羨ましい。



皆からそう言われる父が偉大すぎることが、姫花のコンプレックスだというのに。



そんな父に顔が似ているというだけで近付いてくる人の多さに、心底嫌気が差しているというのに。



だから、姫花の中身を知った人たちが、がっかりしたような目で見てくることが耐えられなくて。



見た目だけで、判断しないで欲しい。



ないものねだりの我儘ワガママ娘だなんて、言わないで欲しい。



姫花のそんな気持ちが、八つ当たりとして父への態度に出てしまっているのだ。

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