第39話

「ご馳走になりたいです」



素直に頭を下げた唯に、



「ん」



姫花の父は満足そうにニヤリと笑うと、



「出来たらまた呼ぶから」



部屋を出て行った。



姫花の父には、自分の父と同じ世代とは思えない程、色気がある。



眉目秀麗で自分の奥さんをとても大切にしていて、家事育児にも協力的。



唯の目から見ても、姫花の父親は憧れの対象だ。



見目の麗しさは真似出来ないにしても、他の点では近付けるようになりたいと思う。



「格好いいよな……」



「え? どこが?」



姫花が露骨に嫌そうな顔をした。



「……」



あの格好良さを理解出来ないとは、一緒に住んでいるのに勿体ない。



「ママは、なんで父さんなんかを選んだんだろ?」



「……」



本当に、勿体ない。



「前から不思議だったんだけど」



唯は、ふと疑問を口にした。



「お母さんのことはママって呼んでるのに、お父さんのことは父さんって呼ぶのはなんでなんだ?」



確か、姫花がまだ小さい頃は“お父さん”と“お母さん”だったはずだ。



「中学入った頃くらいに、パパ大好きって言ってごらんとか言われて、本気で気持ち悪いと思ったから」



「……」



ただの反抗心だった。



というか、あんな格好いい人にも娘に対してそんな願望があったとは、意外だ。

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