第38話

姫花のその言葉を聞いた瞬間、唯の心臓がドキッと一際大きく波打った。



「……誰を、想像したんだ?」



「……内緒」



目を逸らしてそんな言い方をされると、期待してしまう。



「姫花」



思わず、姫花の手を掴んだ。



「!」



蒼い瞳が、唯を見る。



「俺は――」



唯が何かを言いかけた瞬間、



――コンコン。



姫花の部屋の扉がノックされ、



「!?」



唯は、反射的に姫花から離れた。



その直後に扉がそっと開き、



「唯君。うちで夕飯を食べて行かないか?」



姫花の父がひょっこりと顔を覗かせた。



(……変なことをしでかす前で良かった)



唯は心の中でホッと安堵あんどの溜息をついた。



「今日は母さんは遅番だから、俺が作るんだが」



姫花の母親は、近くの小児科病院で看護師をしている。



夜勤はないらしいが、帰りが遅い時は姫花の父が夕飯作りを担当することもある。



因みに、姫花の父は料理の腕も素晴らしいことを、唯はよく知っている。



「今日はオムライスだぞ」



トマトケチャップを作るところから始める姫花の父特製のオムライスは、卵もふわふわトロトロで思い出しただけでも生唾が出る程、絶品だ。



姫花と唯の大好物でもある。

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