第37話

きっと、無意識のうちに怖い顔をしていたのだろう。



「……唯?」



姫花が心配そうに唯の顔を覗き込んだ。



「姫花、家庭科部のファッションショー出るんだってな」



訊くなら、今しかないような気がした。



「あ、うん……」



頷きながらも、あまり気乗りしていない様子の姫花に、やはり疑問を抱く。



「お前、人前に出るの嫌いじゃなかったか?」



「友達に、どうしてもって頼まれて……」



数少ない友達から頼まれれば、断り切れないのは想像にかたくない。



「……あのポスターの写真も、何か楽しそうに笑ってるように見えたけど」



唯が一番気になったのは、それだった。



いつも自分にだけ向けられていた笑顔のはずだったのに。



「うちの父さん、昔モデルさんやってたでしょ?」



「へっ?」



突然の姫花の父の話題に、唯は面食らった。



「だから、父さんに写真を撮られる時のコツを聞いてみたの」



引き受けたからには真面目にこなしたかった姫花は、事前に父からしっかりと学んできたのだ。



「カメラの向こうに好きな人がいると思えって」

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