第36話

「唯にはいっつも勉強教えてもらってるから、ちゃんとお礼したいなとは思ってたんだよね」



ここで姫花は、初めてニコッと笑った。



「!」



唯は、その笑顔に見惚れてしまう。



(……可愛い)



本気でそう思うのに、それを伝えられないのが歯痒い。



伝えた途端、姫花はきっとまた笑顔を消してしまうだろうから。



「唯って、学校の先生とか向いてると思う」



唯の心中を知らない姫花は、まだニコニコと笑っている。



「……俺が?」



「頭いいし、教え方も凄く上手だし」



現に姫花が唯と同じ高校に入学出来たのは、塾や家庭教師のお陰ではなく、唯に勉強を見てもらっていたからだ。



「将来は先生になればいいのに」



そこまで言ってから、



「……でも女子生徒のニキビを指差すのだけはダメだからね!」



先程のことを思い出し、ムッとしながら人差し指を突き立てた。



「うっ……その件は本当にごめん……」



唯は項垂れた。



「分かってくれたのなら、許す」



姫花は、また柔らかく笑った。



その笑顔を見た唯は、



「……」



校内に貼られていたポスターを思い出し、またモヤモヤとした気分になった。

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