第20話

頼斗は、唯を頼りにしながら姫花の後についてマンションの正面玄関を出た。



既に2人のことを待っていた唯は――



「姫花……」



姫花の顔を見て、固まった。



ほら、姫花を元気づける一言を、早く言ってくれ。



頼斗はそう願いながら、2人から一歩離れた所で黙って唯の様子を見ていた。



「お前……そんなに目が腫れてても、可愛さ半減しないんだな」



唯のこの台詞はもうほぼ本音だったが、



「……はぁ!?」



俯いていた姫花の顔を上げさせるには、十分な効力があった。



流石さすがにブサイクでしょう、今の私は!!」



「いや、可愛い」



唯がいつもの意地悪な表情ではなく、甘い表情をしていることに、余裕のない姫花は気付いていない。



だが、唯の気持ちを昨日初めて聞かされた頼斗は、唯の表情の変化にも、その言葉が本音であることにも、全て気付いていた。



(……朝から俺は、何を見せつけられているんだろう?)



3人兄弟のように育ってきたのに、今更好きだの嫌いだのを見せられるのは、正直キツい。



「はっきりブスって言われた方が気が楽なのに!」



「ブス要素が全くないのに、それは言えない」



まだ妙なやり取りを続ける2人に、



「あのー、そろそろ出発しませんか?」



そんな声かけをしながら、マトモなのは俺だけなのかなー……なんてことを、頼斗はぼんやりと考えた。

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