第19話

「あれ? 姫花だけパンケーキ?」



いつも通りに、姫花の後からやってきた頼斗が食卓の上を見て、ズルいと文句を垂れた。



「あ……ごめんね、頼くん。ホットケーキミックスが姫ちゃんの分しか残ってなくて」



母が慌てて頼斗に手を合わせた。



「今日買ってくるから、明日まで我慢してくれる?」



「ちぇー。絶対だからね」



頼斗は唇を尖らせながらも、『何故俺ではなく姫花になんだ?』と責めることは一切しなかった。



勿論、少しはそう思ったのだが、目に保冷剤をあてて黙々と朝食を食べる姫花を見て、空気を読んだ。



これは絶対何かあったんだな、と。



そもそも父の向かいの席に座っているのに、姫花が全く溜息をつかないというのは、それだけで異常なのだ。



「……」



父も姫花が心配なようで、チラチラと姫花の顔色を窺っている。



これは多分、唯に頼るしかないだろうな……



姫花の元気がない時は、いつも唯が何とかしてくれていたから。



まぁこの後どうせすぐに会うし、大丈夫だろう。



特に深刻に考える必要もないと判断した頼斗は、綺麗な焼き色の付いたトーストにかじりついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る