第10話

放課後。



いつもなら、すぐに唯が姫花の教室まで迎えに来てくれるのに。



今日は、クラスメイトが全員帰った後でも、まだ唯の姿は現れなかった。



スマホを確認してみても、遅れるとも一緒に帰れないとも連絡は入っていない。



メッセージを送ってみたが、既読は付かなかった。



「……唯、どうしたのかな?」



上級生の教室に行くのは気が引けるが、このまま黙って帰るわけにもいかないので、勇気を振り絞って2階へと足を踏み入れた。



唯のクラスの教室まで行くと、



「ねぇ。私と付き合って欲しいって話、考えてくれた?」



綺麗だと言われている姫花とは全く違うタイプの、清純そうな可愛らしい女子生徒が、唯に言い寄っているのが見えた。



「!」



姫花は、条件反射的に扉の影に身を隠すようにしゃがみ込んだ。



「それとも、あの綺麗な子、狙ってるの?」



「!?」



その清純そうな先輩の質問に、姫花は身を隠したまま反応した。



唯の好きな女の子のタイプは、姫花も聞いたことがなかったから。



「……俺は、女の子の見た目とか別にどうでもいいから」



姫花のいる廊下にまで届いた唯の声は、酷く冷たい。



「見た目が美人な子よりも、性格が美人な子がいいに決まってるだろう」



「……っ」



自分のことを完全に否定された気持ちになった姫花は、泣き出したくなるのを必死に堪えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る