第9話

電車を降りて、そこからはバスに乗り、学校の最寄りのバス停からはまた5分程歩く。



梅雨時の通学は、少しだけ気が楽だ。



傘を差して歩いているので、必要以上に振り返って顔を見られることがない。



でも、それは外を歩いている時だけの話。



一歩校舎の中へと入ってしまえば、一斉にじろじろと見られ、また陰口を叩かれる。



「桐生さん、今朝も両手に花だ」



「逆ハー気取りかよ」



両手に花?



逆ハー?



片方は実の双子の弟だっつーの!



似てないってだけで判断するなー!!



そう叫びたいのを、唇をぐっと噛み締めて堪えた。



「……」



黙ったまま1年生の教室がある3階を目指して階段を登る姫花に、



「じゃあ、姫花。放課後、また迎えに行くから」



2階で階段を登る足を止めた唯が、ニコリともせずに事務的に告げた。



……その唯のシャツの裾は、皺だらけのままで直されてはいない。



「あ……うん」



それを申し訳ない気持ちで眺めつつ、姫花は小さく頷いた。



姫花の返事を聞いてから、唯はくるりと背を向けて歩き出した。



その背中からは、唯が姫花をどう思っているのか、読み取ることは出来なくて。



「おい、姫花。遅刻するぞ」



頼斗に声を掛けられるまで、その背中を見送っていた。

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