第8話

(――もう。そういう所が好きなんだよ)



一気に加速していく気持ちに、唯のシャツを握る手が汗ばんでしまう。



「唯〜、俺もお前の肩掴んでもいいか?」



すぐ傍で聞こえた頼斗の声に、姫花は一気に現実へと引き戻される。



……そう。



頼斗も姫花たちと同じ高校に通っているので、当然のように同じ電車に乗っているのだ。



駅までの道も、ずっと3人一緒に歩いて来ていた。



決して、唯と2人きりの通学デートなんかではない。



この頼斗オマケも必ず一緒にいるのだ。



「お前は俺よりデカいんだから、吊り革の上の棒とか、どこかテキトーに掴んどけよ」



少し背が高めの唯よりも、頼斗の方が背が高い。



去年の健康診断の時には確か175cmを超えたとか言っていた。



今が何cmなのかは知らないが。



「ん〜……テキトーに、ね」



頼斗は渋々頷き、姫花の頭の上に肘を載せた。



「……痛い」



「ちょっ、お前……」



姫花の涙目を見た唯は、慌てて頼斗の腕を掴んだ。



「分かった。俺の肩掴んでていいから」



「最初からそう言えよ」



頼斗は意味ありげに、にやりと笑った。

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