第7話

でも、彼は――



「よっ! 相変わらず、顔だけはいいな」



意地の悪そうな笑顔で朝の挨拶をすっ飛ばし、姫花の一番気にしていることを指摘する。



「……おはようの挨拶くらい、まともに出来ないわけ?」



毎朝のこととは言え、言われる度に傷付く。



それでも傷付いた顔なんて見せたくなくて、眉間にしわを寄せた姫花は、唯を鋭く睨みつけた。



毎朝、姫花の住んでいるマンションの正面玄関の前で、姫花を待ってくれている唯。



姫花が高校へ入学してから、こうして毎朝迎えに来ては、挨拶代わりに顔を褒めている。



「あーあー。折角の美人が、眉間の皺で台無しだな」



「それが本当なら、願ったり叶ったりだわ」



何故こんな酷い男を好きになってしまったのか。



それは姫花自身にも分からないが、一度自覚してしまった気持ちに嘘はつけない。



ドキドキする気持ちを必死に隠し、唯と共にいつも利用している電車に乗る。



ギュウギュウ詰めの満員電車。



座席に座ることはおろか、吊り革につかまることすら難しい。



姫花の両親は共に高身長なのにも拘わらず、姫花の身長は155cmと、お世辞にも長身とは言えない低さ。



通勤通学ラッシュで押し潰される度に、何故身長は父親譲りではないのかと心底恨めしく思う。



「姫花。辛かったら、俺のシャツ掴んでていいから」



そんな唯の気遣う言葉にドキドキしつつ、



「……ありがと」



素直に甘えることにした。

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