尽色。

第89話

とある平日の日、それは突然に起こった。



大学での講義を終えた純は、自宅には帰らずにそのまま仕事現場へと直行して。



空がすっかりと暗くなった頃、沙那が待っているはずの自宅へと急いだ。



いつもなら、駐車場からでも部屋の明かりが見えているのに。



「……?」



この日は、純の部屋の明かりは全く点けられてはいなかった。



こんな時間に出掛けるなんて、そんなことは一言も聞いていなかったのに。



はやる気持ちを抑えて車から降りた純は、正面玄関をくぐり、ゆっくりと下りてくるエレベーターをイライラと待ちながらも――



内心では、押し寄せる不安と戦っていた。



エレベーターを降り、慌てて自宅玄関の鍵を開ける。



扉を開けると、やはり中は真っ暗で、人のいる気配がなかった。



「沙那?」



沙那の名前を呼びながら、リビングや寝室、バスルームなどを覗いて回る。



どの部屋にも沙那はいなくて、純は思い出したように慌ててズボンのポケットからスマホを取り出した。



どこかに出掛けるという沙那からのメッセージなどは何も来ていなくて。



沙那のスマホへと電話をかけながら、彼女を探すために再び玄関へと向かって――



「!」



玄関の隅に行儀よくちょこんと揃えられた沙那のパンプスを発見した。



これは今朝、彼女が学校へ行く時に履いていたものだ。



ということは……?

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