第86話

沙那が静かに問いかけて、



「……」



陽はカップの上のペットボトルを傾けた姿勢のまま、動けずにいた。



動きは完全に止まってはいたが、その顔は真っ赤に染まっていて、いつものクールな陽らしくない。



「陽は、ユウのこと好きじゃない?」



沙那が更にたたみかけるように言って、



「なっ……なんで、そんな……」



動揺し始めた陽は、ペットボトルを慌ててテーブルに置くと、まだカップの3分の1も入っていないお茶を一気に飲み干した。



しかし、やはり全然足りなかったらしく、また慌てて注ぎ直して、今度こそゴクゴクと喉を鳴らして飲む。



カップをタンッとテーブルに置いてから、



「急にそんなこと言われても……あいつのこと、そんな風に見たことないし」



空になったカップの中身をじっと見つめた。



沙那も同じように陽のカップを見つめて、



「これからは、そういう風に見ようとは思わない?」



努めて優しく問いかけた。



「……分かんない。嫌いじゃないからこそ、余計に」



嫌いじゃない、と言いながらも陽の顔はこれ以上赤くなれないのではという程に赤く染まっていて、祐也のことは十分に意識しているのだと分かる。



分かっていないのは、



「榊のこと、分かんなくなってきた……」



陽本人だけなのである。



(ユウ、あともう一押しだよ! 頑張って!)



沙那は、今頃はまだ純と一緒にいるであろう祐也へと、心の中でエールを送った。

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