第83話

「んー……いないわねぇ」



ルーズリーフにシャープペンシルを走らせながら答えた陽は、祐也から真っ直ぐな視線を向けられていることにまだ気が付いていない。



「彼氏欲しいとかは?」



「特には……まぁ、幸せそうな沙那を見てるといいなって思うことはたまにあるけ、ど……」



言いながら、やっと祐也の視線に気付いた陽の語尾が段々と弱くなっていった。



「……何よ?」



「俺は、五十嵐のこと好きなんだけど」



「……え」



陽の手からポロリと零れ落ちたペンが、テーブルの上でカツンと音を立てた。



音のした方をちらりと見た陽は、また祐也へと視線を戻す。



祐也はその間も一度も陽からよそ見をしなかった。



「それは、その……友達として――」



って意味だよね? と続けようとした陽の言葉は、



「勿論、異性としてに決まってるだろ」



祐也の言葉によって遮られた。



いきなり何バカなことを言い出すのよ、とか適当にあしらわれるだろうと思っていた祐也は、



「え……あ……」



真っ赤に染まった陽の顔を見て、



「え……?」



驚きで目を見開いた。



「五十嵐……?」



祐也が、慌てて俯いてしまった陽の頬にそっと手を添えようとして、



「き、急用を思い出したから帰る!」



その手を振り払うように、陽が慌ててソファーから立ち上がった。

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