第81話

「……フラれる可能性のが高いのに?」



祐也のうじうじとしたその態度に、



「……」



沙那は呆れて黙ってしまった。



胸の前の拳も、力なく膝の上に下ろされる。



昔、祐也が沙那に告白してくれた時はもっと堂々とした様子に見えたのに。



「ならば、このまま告白せずに“良き友人”として五十嵐と一緒に過ごして……ある日突然、五十嵐あいつに恋人が出来たとしても、榊は笑顔で祝ってやれるんだな?」



純が射抜くような鋭い眼差しで祐也を真っ直ぐに見つめ、



「え……」



祐也は再び静止した。



「どうせ後悔するのなら、せめて行動に移してからにしろ」



それは純の経験談によるものなのだが、純自身には結果として後悔は一つもない。



沙那と過ごせる今が、とても幸せだから。



「行動した上での後悔なら、愚痴でもヤケ酒でも何でも付き合ってやるから」



純の、なんだかんだで優しい台詞に、



「……ん? スーってまだお酒飲めないよね?」



純の20歳の誕生日がまだ先であることに気付いた沙那がコトリと首を傾げて、



「いや、どうせ榊の勇気なんてそんなにすぐには出ないだろうと思って」



純はさらりと言い放った。



「桐生! 今、俺のことバカにしたな! よーし、分かった! すぐにでも男らしいとこ見せてやるから、俺に惚れるなよ!」



祐也はムキになって純に向かってビシッと指を差して、



「チョロいな」



純は本人にバレないよう、ニヤリとほくそ笑んだ。

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