第78話

「なぁ! 桐生、頼む! 好きな女を落とすコツを教えてくれ!」



その台詞は、自身が陽のことを好きであると全肯定しているも同然だということに、祐也は全く気付いていない。



「いや、俺に聞かれても」



純は後ろへ一歩たじろぎ、



「お前程モテる男は他にいないだろ!」



祐也は純へと一歩詰め寄った。



「……誰でもいいということなら方法はあるが……特定の相手、それも五十嵐ということになると全く簡単ではないぞ」



現に、いくら純が女性から絶大な人気を誇っているとはいえ、陽からは全く1ミリの興味も持たれていないのだから。



……興味を持たれたところで、不気味以外のなにものでもないが。



「五十嵐が俺のことどう思ってるのか、ちょっと聞いてきてくれよ」



祐也が両手を合わせて拝むようにして純に頭を下げる。



「何故、俺が……あ」



純の脳裏にふと、愛しい彼女の顔が思い浮かんだ。



「沙那に聞いてもらえばいいんじゃないか?」



しかし、祐也は何故か不満そうな顔をする。



「……それって、俺が五十嵐のこと好きなのを沙那にもバラすってこと?」



「安心しろ。もうとっくにバレてるから」



というか、純は沙那に教えてもらったわけだし。



「……えっ!? もうってどういうこと!?」



知らぬは本人たちばかり。



それが恋愛の面白くも難しいところなり。

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