第77話

学食を出てそれぞれが受講する講義に向かう途中、



「ったく、何なんだよ、あの野郎。桐生と沙那追っかけてたと思ったら、今度は五十嵐ってよー」



祐也がぶつくさと文句を垂れた。



「安心しろ、榊。最後にはきっとお前も選ばれる」



本気なのか冗談なのか分からない純の台詞に、



「安心出来ねー。笑えねー」



祐也はさらにぶすっと唇を尖らせて、



「まぁ、笑わせようと思って言ったわけではないからな」



どこまでも真面目な様子の純を見て、



「あー……聞かなきゃ良かったヤツかな、それ」



廊下をたらたらと歩きながら、独りちた。



「そういえば、告白はしないのか?」



ふと疑問に思ったことをそのまま祐也へとぶつけた純は、



「だっ!? 誰に!?」



分かりやすく動揺してみせた祐也を見て、意地悪げにニヤリと唇の端を持ち上げる。



「五十嵐。このまま放っておけば、もしかすると瀬戸のやつに取られるかもな」



そんなことは陽の性格上ありえないのだが、



「えぇっ!?」



今の祐也にはそれを冷静に考える余裕はなかった。

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