第76話

丁度そのタイミングで食器を返し終えた陽が戻ってきた。



顔をゆでダコ並みに赤く染めている祐也に気付き、



「榊……アンタ熱あるんじゃないの?」



陽がいぶかしげな顔で、祐也の向かいに座る朝日を両手で押して退かしてから、自分がそこに座る。



陽に正面からじっと見つめられて、



「……っな、なんでもねぇよ!」



湯気が出そうな程に更に顔を赤くした祐也が、誤魔化すように揚げ餃子を口に押し込んだ。



「ま、食欲があるなら大丈夫か」



テーブルの上で頬杖をついた陽が、



「これで榊もあたしと同じ、ニンニク臭団に仲間入りしたな」



共犯者でも見つけたかのように嬉しそうにニッと笑って、



「……っ!?」



その笑顔に胸がドキッと高鳴った祐也は、その反動で餃子を喉に詰まらせた。



苦しそうに左手の拳でドンドンと胸を叩く祐也の背中を、



「さっきから何をしているんだ、お前は」



鬱陶うっとうしそうな眼差しを向けた純がバシバシと叩いてやる。



その様子を、席から追い出された朝日が、



「ええなぁ、こーゆーの」



ぼそりと呟くように言って、



「……」



それを唯一聞いていた沙那は、寂しそうなその横顔を黙って見つめていた。

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