第75話

さて祐也はこの後それをどうするのかな、と沙那と純が静観する中で、



「これっ……五十嵐の食べかけ、だよな!?」



分かりやすく顔を真っ赤に染めた祐也があたふたし始めた。



一応は祐也の元カノである沙那から見ても、その表情は初めて見る種類のもので。



(……陽のこと、本当に大好きなんだ)



自分との時には見せなかったその表情を、間にいる純をけるように体を傾けたままで見つめていると、



「沙那……」



不安そうな顔をした純が、沙那の視界を遮るように割り込んできた。



「あ、違う違う」



沙那は慌てて首と右手を左右に振り、



「ユウも照れたりするんだなと思って」



純にだけ聞こえるように、こっそりとささやいた。



レンゲにすくったチャーハンを手にしたまま固まる祐也の向かいの席に、いつの間にか朝日が移動してきていて。



「なぁ。それ食わんのやったら俺がもらったろか?」



まだ何も注文すらしていなかった朝日が物欲しそうな目でチャーハンを見つめる。



「なっ……俺が全部食うに決まってんだろ!」



祐也は目の前の朝日を鋭く睨み付けると、そのままレンゲを勢いよく口に運んだ。



「あ」



「食べたな」



黙って見ていた沙那と純も、思わず声を漏らした。

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