第74話

「あんまりしつこいと、その似合ってないヅラと眼鏡取るわよ」



相手を鋭く睨み付ける陽の目の前にいる朝日は、今日は長めの黒髪に黒縁の伊達眼鏡をかけている。



「俺なぁ、この間の陽ちゃんの食べっぷりに惚れてもうてん」



「……」



口に運ぼうと餃子を摘んだ陽の箸の動きがピタリと止まった。



「ほっそい体してんのに、男以上のこの食べっぷり! 共学の学校やのに、男の目も気にせんとニンニク入りの料理を食べるその度胸! ホンマに格好ええわぁ」



朝日のターゲットが今度は自分になってしまったことになんとなくだが気付いていた陽は、



「……」



わざと女を捨てた食べ方をして見せていたので、まさかそこを気に入られるとは思っておらず、今更になって激しく後悔した。



黙ったまま静かに箸を置くと、



「あ、何かお腹いっぱいで食べられないや」



慌てて席を立ち、



「榊くん、良かったらこれ食べて」



沙那にニンニク臭のするものを渡すのは可哀想だと判断し、その隣の純に自分の食べかけを、というのも違うと判断。



消去法で祐也の目の前に揚げ餃子とガーリックチャーハンの皿を置き、陽にしては珍しく女の子らしい話し方で言い放つと、



「えっ!?」



驚く祐也たちを残して、ラーメンの器をさっさと返却口へと持って行ってしまった。

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