第72話

「沙那の、好きなように」



「じゃあ、スーで!」



「……ん、分かった」



小さい頃から何も変わらない沙那の無邪気な笑顔を見て、純は不安がる必要なんかどこにもなかったのだと、この時になってようやく気が付いた。



「あとね、これは言っちゃいけないのかもしれないけど……」



そう切り出した沙那は、ふふふっ、といたずらっ子のような笑顔を純に向ける。



「ユウね。多分、陽のこと大好きだよ」



「……そうなのか!?」



気だるさが一気に吹き飛ぶレベルで驚いた純は、その蒼い瞳を思い切り大きく見開いた。



「あれだけ尻に敷かれておいて……?」



「ぷっ……でも、お似合いだよね」



沙那が純の腕の中で楽しそうに笑う。



そんな沙那を見て純は、ふむ、と小さく頷いた。



「あの2人が付き合い始めたとしても……多分、今とそんなに変わらないんだろうな」



「ダブルデートしよって言っても、いつも通りここでピザとか頼んで皆で食べるだけになりそうだね」



「……いいのか? それで」



「そんなことで、マンネリだー! とか言うような仲でもないでしょ、私たち」



「それもそうだな」



純は沙那をぎゅっと抱き締め、



「恋人にも友人にも恵まれて、幸せが何なのかやっと分かった気がする。ありがとう、沙那」



彼女の額に口付けを一つだけ落とすと、そのまま微睡まどろみの世界へと堕ちていった。



「どういたしまして。おやすみ、スー」



そして沙那も、純の腕の中で静かに目を閉じた。

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