第68話

「わ、分かってるクセに……なんでそんな意地悪言うの?」



沙那の両目から、ついに涙がぽろぽろと零れ落ちた。



「……っ」



沙那を泣かせるつもりなど全くなかった純は流石に焦ったが、



「……俺が沙那を抱きたいと言ったことは何度もあるが……沙那が俺に抱かれたいと言っているのは、一度も聞いたことがない」



純は、ずっと抱えていた悩みを、初めて沙那に打ち明けた。



「求めているのはいつも俺ばかりで、沙那はそうではないのかもしれないと思うと……不安になって当然だろう」



「……!」



言われて初めて、沙那は自身が純に対して常に受け身の態度を取っていたことに気が付いた。



「沙那は今……どうして欲しい?」



純の蒼い瞳が、真っ直ぐに沙那の目を覗き込む。



宝石のようなその蒼色は、不安と期待を織り交ぜたような儚い色をしていて、沙那の胸をぎゅっと締め付けた。



「……スーに、抱いて欲しい」



蚊の鳴くような声で訴えると、



「俺も、今すぐ沙那を抱きたい」



純が、着ていたTシャツをばさっと脱ぎ捨てた。

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