第65話

「俺は心が狭いから……他の男と一緒にいる沙那の幸せは、どうしても願えない」



そんな純の言葉に、沙那は矛盾や違和感を覚えた。



「……私が最初にスーに好きって言った時、スーが何て答えたか覚えてる?」



沙那に真っ直ぐに見据えられた純は、気まずそうに視線を宙に泳がせる。



「……もっと沙那を大事にしてくれるヤツと一緒になれ、と言った」



答えてから、



「あの時は本気でそう思っていたが、今は……そんなの、嫉妬で気がおかしくなりそうだ」



沙那の額に自分の額をこつんと優しくぶつける。



「ずっと俺の傍にいて欲しい」



切実な純の声に、沙那の胸がぎゅっと締め付けられる。



「うん。もうこうしてスーのすぐ傍にいるじゃん」



「分かっている……でも、全然足りないんだ」



全く満たされることのないこの気持ちをどうすればいいのか、純は分かっていたが、それはえて口には出さなかった。



(……沙那を、思い切り抱きたい)



そうは思うが、それを実際に今するのは、何だか違う気がするから。



「……スー」



自身の欲求と葛藤している純を、沙那が優しく呼んだ。



「うん?」



すぐに反応した純が、沙那の目を不思議そうに覗き込もうとして――



沙那と目が合うよりも先に、彼女の唇が純のそれに優しく重ねられた。

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