第59話

カフェを出た沙那は、バスに乗って純のマンションへと向かった。



玄関の中へ入ると、部屋中のカーテンは締め切られて電気も点けられておらず、真っ暗だった。



「スー?」



靴を脱ぎながら声をかけると、



――ガタンッ……バタバタ……



寝室の方から物音が聞こえ、



「沙那!」



廊下を慌てて走ってきた純に、思い切り抱き締められた。



「もう帰ってきてくれないのかと思った」



沙那を強く抱きすくめる純の体は、小刻みに震えている。



「スー……」



「もう沙那の気持ちを無視するようなことは二度としないから……だから、ごめん」



更にぎゅうっと強く抱き締められ、



「く、苦しい……」



沙那は呻いた。



「あ、すまん!!」



純は慌てて沙那を離すと、



「俺のこと、許してくれないか……?」



不安げな瞳で沙那を見つめた。



「私のこと、疑ってるんじゃないの?」



沙那の問いかけに、純は俯く。



「……沙那を疑ったのではなくて……本当に俺でいいのか自信がなかっただけなんだ」



「スーがいいって言ってる私を信じてくれてないのと同じことじゃない」



「……そうだな……すまん」



純は項垂れた。



そんな純の胸に、沙那はそっと顔を埋めるようにして抱きつく。



「私は、格好良くない姿のスーも含めて、全部好きだよ?」

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