第56話

言われてみれば、そうかもしれない。



「別々の意志を持ってて当然なのに、その相手を“支配したい”とか思っちゃうと、もう絆も何もなくなっちゃうけど」



「……」



今の沙那たちが、その状態なのかもしれないと思った。



「とにかく、桐生君にはもっと深く反省してもらわなきゃだわ」



陽はそう言うと、沙那の手からスマホを奪い取り、バッグの中へと滑り込ませた。



「とりあえず、今日は冷却期間! で、明日は仲直りする! それでいいわね?」



「うん」



沙那が小さく頷いたのを確認した陽は、



「じゃあ、先にお風呂入っちゃいな!」



クローゼットの中から、自分の部屋着を取り出して沙那に差し出した。



「これ、今日のパジャマにしてくれていいから。バスタオルは脱衣所にあるの使って」



「ありがと」



やっと笑顔を見せた沙那を見送ってから、



「さてと」



陽は、やっと自分のスマホを手に取った。



そこには大量のメッセージ通知が入っていて、



「榊のヤツ、何やってんだか」



その送り主の名前を見て、ぷっと小さく噴き出した。



祐也からのメッセージは、



『桐生の野郎、布団から出てこねーんだけど!』



『もう俺には無理だー!』



『たまには俺とポジション代われやー!』



そんな愚痴の実況中継だった。



「リアルタイムで送られても、見る暇ないっつーの」



独り言のように呟いた陽の表情は、何だか楽しそうだった。

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