第54話

純が帰ってしまった後で、



「あの……陽さん」



ラグの上にペタンと座った沙那がおずおずと陽に声をかける。



「私はスーと別れたいなんて考えたことないのですけれど……」



陽があまりにも怒っているので、沙那の口調は自然と敬語になった。



「分かってるわよ」



対して、ベッドに腰掛けている陽はケロリとしている。



「だから振られるわけがないだろうってタカをくくってる桐生君を、脅したかっただけ」



「……」



「そういう危機感のない男が、女を大事に出来るわけがないでしょ」



陽は、ふんと鼻を鳴らしながら持論を展開してみせた。



先程レストランで朝日に迫られた時にも思ったが、陽の性格はその辺の男性諸君よりも男前な気がする。



きっと陽が男だったら、さぞかし女の子からモテたんだろうなぁ……なんて、沙那は考えてしまった。



その時、



――ピロリンッ



沙那のスマホにメッセージが届いた。



「あ……スーだ」



通知画面を見た沙那がぼそりと呟き、



「今見ちゃダメ!」



メッセージアプリを開こうとしていた沙那を、陽が慌てて止めた。



「今日は未読スルーして」



「なんで? スー、謝ってくれてるのに」



通知画面に表示されていたのは、



『今日は本当にすまなかった。』



そんなメッセージだった。



きっと酷く落ち込んでいるのだろうと想像出来るメッセージに、何か一言だけでも返信したかった。

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