第53話

扉を無理矢理こじ開けようとするが、チェーンに阻まれてそれ以上は無理だった。



「そのままの意味よ」



焦る純に、陽は冷たく言い放つ。



「沙那に酷いことして、冷たく突き放すようなこと言って……これからのことを考え直して当然でしょ」



「……っ」



「桐生君はね、沙那が絡むと心が狭くなりすぎるのよ」



陽は、容赦なく純に言葉を浴びせ続ける。



「そんなんじゃ、いつ捨てられてもおかしくないからね」



「!」



びくっと体を震わせた純を見て、



「今日はもう、そっとしておいてあげて」



陽は無情にも扉を閉める。



扉が閉まる刹那、その奥に沙那の姿が見えて――



「……」



悲しそうな目でこちらを見つめる沙那と、目が合った。



泣いてはいないようだが、今にも泣き出しそうな目をしていた。



「……っ」



沙那を守りたいと思っていたはずなのに、実際には傷付けるようなことばかりをしてしまっている。



そのことに気付いた純は、



「……」



何度も陽の部屋の扉を振り返りながら、自分の車へと戻った。



ズボンのポケットからスマホを取り出し、沙那にメッセージを送る。



陽の部屋の明かりを見つめながら、しばらく車内でスマホの画面を見つめていたが――



純の送ったメッセージに既読のマークが付くことは、この日はなかった。

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